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「じゃあ……3000万で買った」
何の迷いもなく彼はそう言って
もう一度
どうぞ、と助手席に乗るように促す。
自分で言ってしまった手前、もう拒む事も出来ない。
この人にとって、3000万ってそんな簡単な額だったなんて。
少し位困った顔を見たいと思った、私の甘い考えはあっさり砕かれて
促されるまま、車へと乗り込んだ。
「シートベルトしてね」
そんな言葉の後、ドアが閉められた。
ルームライトが消えて
暗い車内から、フロントガラスの向こう
運転席へと回る彼を目で追いながら
変わってない、この車の中の匂い
このシートの座り心地
数え切れない程座った、このシートの思い出が蘇る。
左側の運転席に乗り込んで来た彼は
シートベルトに手を伸ばした時に
私を見て動きを止めた。
「何考えてる? 」
「………え? 」
さっきとは違う
見えないはずの心の中を
見透かすような目をした彼と目が合って
「……別に……」
ちょっと怖くて目を逸らした。
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