3000万

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大きなガラスのドアの向こうに、広いプールが見えた。 ドアを開けた彼は 少し後ろにいた私を見て、その手を伸ばし私の背中に当てた。 中へと軽く押されるように歩く。 プールの中も薄暗くて、閉館後の静けさ。 靴を脱いで、冷たいコンクリートの上を裸足で進むと、いきなりタオルを頭からかけられて 「適当に座ってなよ」 そう言いながら 今度は着てたTシャツを脱いで 「これもヨロシク」 やっと頭からタオルを取った所に向かってTシャツを投げるから、慌ててキャッチした。 そんな様子もまた彼の笑いを誘ったようで クスっと笑いながら スッとその手が私の髪に触れて 「髪、ボサボサだし」 タオルを取った時に乱れた髪を軽く直し 右耳に髪をかけた。 「これで良し」 こういうさり気ない優しさは、父である藤井さんと同じ。 でも彼の場合は、そのさり気ない優しさはあまり発動されないレアな行動のようで 優しくなんて、出逢ってから初めてしてもらった。
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