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「なんだろ。出てみるか」
ヨウさんがドアへと歩いて行く。
ドアを開けながら
「あのー、すみません。
今日はもう閉店して……」
ドアの向こうに立ってた人を見て、ヨウさんが言葉を止めた。
………誰?
その人はヨウさんから
カウンターの中にいる私に目を向けて
「無理を承知でコーヒー1杯だけ、ダメかな」
私と同じ歳位の男の人。
初めて見る人なのに
そう思えない何かを感じるのはなんなんだろう。
「……エスプレッソで宜しければ」
自分達の為に淹れたばかりのエスプレッソなら、と答えたら
「じゃあ、それで」
そう微笑む人。
するとその人の後ろから
女の人が顔を見せた。
「ねぇ、本当にこんな所で休むの? 」
「まぁ、ほら。オレ、少し休みたいからさ」
気乗りしないような女の人の背に手を当てて
二人で店内へと入って来る。
「……こちらの席へ」
ヨウさんが綺麗に片付けた後の
窓際の席に案内すると
女の人のハイヒールの音が店の中に響く。
……ああ、この人達は“お金を持ってる人”だ。
着てる服も、履いてる靴も
身に付けてる全てのものが
記憶の中の藤井さんと同じ世界の人だと語ってる。
「小さいけど可愛いお店ね。
たまにはこういう所も新鮮で良いかも」
コーヒーを二つのカップに注ぎながら、
耳に届く女の人の言葉を聞いていた。
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