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化粧室の扉の閉まる音が聞こえた後
今度は男の人が立ち上がり、こちらへと歩いて来る。
店の中のドライフラワーに時々手を触れながら歩き、その人はカウンターの中へと入って来た。
「………あの……」
「オレの事知らないの? 」
目の前まで来て
私の目を見てそう問いかける。
「……ごめんなさい。
どこかでお会いしましたか……? 」
私の答えを聞いてその人はクスっと笑い
ジャケットから財布を取り出し
そこから名刺を1枚抜いて私に差し出した。
「会社名と苗字で分かるでしょ」
受け取った名刺の社名に心臓がドキっとして
この人の名前を見て
そのドキドキは苦しい程に増えた。
藤井典幸
名刺を持つ手が震える。
「親父がお世話になってたみたいで。
どんな女なのか
ずっと会ってみたかったんだよね」
初めて会った気がしなかったのは、そのせいだったんだ。
近くで見れば、良く似た目をしてる。
言葉の出ない私に顔を近付けて
「いくら欲しい?
今度はオレがあんたを買ってあげるよ」
彼は意地悪そうな顔で微笑んだ。
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