1、先生の課題

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1、先生の課題

ーキーンコーンカーンコーン 授業が始まるチャイムが鳴った。3年1組という教室から、ガタガタと椅子に座り始める音が響いていた。 「おはよー!!」 いかにも生徒に好かれそうな爽やかな男子教師がその教室に入る。 生徒たちは一斉に立ち上がり、朝の挨拶をする。 「おはようございます。」 日直の生徒の号令でまた一斉に座り、教師が話し出すのを待つ。 都会から離れた田舎のこの中学校では、そんなに派手な生徒もいなければ、先生に激しく牙を向く生徒もいない。しかし、中学3年生というこの多感な年ごろの生徒たちは思いを内に秘め、いろんな感情と闘っている事をこの教師はわかっていた。そのため、いつも慎重に物事について話を進めていたが、今日はなぜだか突然突拍子でもないことを提案した。 「さぁ、みんな卒業まで、あと3カ月だ。受験もある。大変だね。でも、そんな大変な時に僕から君たちへ中学生活最後の課題を与える。それは、簡単なようで難しい課題だよ。君の隣は共にこの中学生活を楽しんだ友だ。その隣にいる友に、卒業までに、その友が心の底から喜ぶプレゼントを渡してあげてほしい。」 教室がざわついた。隣の席?私?俺?と生徒たちが顔を見合し笑いあったり首をかしげたりしていた。 「はーい。静かに。今から注意点を説明するよー。」 教師は手をパンパンっと叩いて、黒板の方に注目させた。教師はコツコツと素早く黒板に書きだし読み上げ始めた。 「その1、隣同士ではなく、1番前の席の窓際の人から始まり、隣へとプレゼントを渡していく。端に来た人は後ろへ、後ろの人はまた隣へと渡していく。そしてぐるりと回って最後にプレゼントを渡された人はまた、この1番前の席の窓際の人へプレゼントを渡す。これで全員がプレゼントを受け取る事になる。わかったかな?」 生徒たちは、自分の横を見て確認する。またヒソヒソと話す声が聞こえる。 「はーい次!!」 教師はまたコツコツと黒板に書く。 「その2!プレゼントはモノじゃなくてもよい。言葉や、歌でもいい。とにかく相手が喜ぶものであること。これが絶対。」 生徒たちはさっきよりもざわついた。それぞれ思い思いの疑問が教室に飛び交っていた。 教師はまた手をパンッと叩いて、 「はーい!質問はあと!」 といい、またコツコツと黒板に流ちょうに書き始める。 「はい!その3!プレゼントをされた人は、正直にそのプレゼントが本当にほしいものであったか。心の底から嬉しいものであったか、しょーーーじきに!答える事!本当は、プレゼントされたものなんだから、そんな事は関係なくありがとうを伝えるべきなんだけど、今回だけは、そのプレゼントをもらって自分がどう感じたかを伝えて欲しい。遠慮はいらない。言いにくければ僕にいってきて。これはすごく大事な事だからね。必ず本音で話してくれ。そして、こっからが重要。プレゼントを喜んでもらえなかった人は、相手が喜んでもらえるまでプレゼントを選ぶ事。もちろん、何度もプレゼントをもらえるんだーとか言って、実は嬉しいのに嬉しくないとかはダメ。まあ、そんな嫌なヤツはこのクラスにはいないって僕は君たちを見てきてわかってるから大丈夫だと思うけど。まあ、とにかく、相手が喜んでもらえるプレゼントを渡す。そして喜んでもらえなかった人はやり直し。他の人も一緒に考えてあげてね。このクラスの全員がプレゼントを誰かに渡し、もらったプレゼントが全員嬉しいもの、喜んばれたものであった時点で、この課題は終了だよ。わかったかな?」 生徒たちは一層困惑した様子で、ざわざわと話し出した。そして一人の男子が手を挙げた。 「先生!!質問です!!」 教師は、手を差し伸べて 「いいよ。どうぞ、橘君。」 と言った。 「プレゼントの金額はどれくらいですか?!俺金ないんすけど!」 教室がどっと笑いにつつまれた。 教師も同じように笑って、 「知ってる知ってる。みんな学生だからね。だからこそ、物じゃなくてもいいってさっき言ったよね。大事なのは、お金をかけたかとかじゃなくて、相手が喜ぶものであること。これだよ。」 と男子を諭すように言った。それを聞いて男子だけでなく他の生徒も少しほっとしているようだった。 「来週の金曜に発表してもらうからね。さぁ、みんな相手が喜ぶものは何か。よく考えてプレゼントしようね。じゃあ朝のホームルームはこれで終わり!」 そして、教師が立ち去ろうとすると、一人の女子生徒が立ち上がって言った。 「待ってください!どうしてこんなことするんですか。」 今まで明るい雰囲気だった教室が一気にシンとした。教師はゆっくりと振り向き、またにっこりと笑って、 「大丈夫。こんなことじゃない。ちゃんと意味がある。でもその意味を話すのはこの課題を終えてからだ。だから今は考えずに進んでほしい。」 と今までとは違う少し厳しい口調で言った。 女子生徒は、何も言い返せず、ゆっくりと座った。 「はい!これが中学最後の僕の課題!頑張ろう!」 教師は、そういうと明るく教室を後にした。
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