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隣で呟く彼女のその言葉は、誰かに向けられたものではなく、譫言のようにぼくの耳に届いた。
彼女の頭に手を置くが、そんなぼくの手に反応することもなく邪険にすることもなく、虚空を見つめるように窓越しへと目を向けている。
窓の先では小雪がちらついている。もうすぐ春が訪れようとしている今冬最後に見る雪かもしれない。
ユウヤくんか……。
あの時と変わらぬ声音、口調で彼の名を呟く彼女の声を、ぼくはあの頃よりも落ち着いた気持ちで聞いていた。激しい感情にかき乱されることはなく、だけどささやかな嫉妬だけは胸に残したまま、ぼくたちが誰一人欠けずに揃っていた日々が鮮明によみがえっていく。
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