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二人の足音が、ばしゃばしやと音を立てる。全身はもうびしょ濡れだ。どこまで走るのだろうと不安になり始めていたら、すぐに猛は立ち止まった。
「ここは……?」
「俺の家」
「えっ!」
「悪い。俺の家が近かったから連れてきちまったが……嫌だよな?」
「そ、そんなことないです」
「服も濡れちまってるし、雨宿りして風邪ひくよりいいだろ」
「すみません……お、お邪魔します」
「今日は誰もいないから遠慮すんな」
ほっとするような、そうでないような。
くるみは導かれるまま猛の家に上がる。
案内された猛の部屋は想像通りすごく男の人っぽい部屋だった。青を基調にしたベッドやカーテン。でも、ところどころに飾ってあるキーホルダーやマスコットがどれもこれもかわいらしくて、つい目に入ってしまう。
「このマスコットかわいいですね」
思わず手にとっていたはうさぎのマスコットだ。ふわふわしていて手触りもいい。彼の風貌からすると相当意外なものだけれど、今となってはそう驚かない。
「あ、ああそれかわいくて、つい買った」
「意外だけど、なんかわかります」
「……そうか?」
照れくさそうに猛は笑った。
「そんなことより、服着替えるだろ?」
「ええっ!」
「濡れたままじゃ風邪ひく。そのために連れてきたんだ。脱いで拭け。その間に乾燥機にかけるから」
テキパキとした対応に頭が下がる。
「ありがとうございます! じゃあ、着替えます」
「ああ、服持ってくる」
猛が部屋を出て行ったのを見届けると、くるみは濡れたカットソーを脱ぎ始めた。下着に
まで水が沁みている。さすがにこれを洗濯してもらうわけにはいかないけれど、少しの間だ
け外して乾かしたい。
プチ、とブラジャーのホックを外した。
「そうだ百瀬。飲み物は――」
ガチャリとドアが開く。
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