639人が本棚に入れています
本棚に追加
「せ、先輩って、遊び人なんですか!」
「……は?」
勢い余ってぎゅっと目をつむっていた。
これじゃあ猛の表情を確認することができないのに。
くるみは怖かったのだ。
遊びだと、言われることが。
「……なんで、そう思った?」
先ほどまでの弱い声などどこかに消えて、重く低い声が響いた。
「……だ、だって、先輩私にあんなことを……」
「ああ……あれが遊びだってことか」
こくりとうなずく。
まだ、顔を見る勇気が出ない。
「そうじゃなくちゃ、おかしい、です」
猛くらいかっこいい人が、くるみにあんなことをする理由なんてひとつしかない。バカそうで、男を知らないから、簡単に偏されると思ったのだ。
くるみの中で答えは決まっていたが、猛には否定をしてほしいと願う。
そうじゃない、と言ってほしい。
そうすればまた一緒にシュークリームを作って食べて、動物園に遊びに行きたい。あの時が一番たのしかったのに。
なんで、騙されてしまったんだろう。
「……そうだよ」
「え?」
思わず顔を上げた。
鋭い瞳と視線がぶっかる。怒りの滲んだ表情だった。
「ばれちまったか。そうだよ、遊び人って言われたらうなずくしかない」
「や、やっぱり……」
くるみの想像通りだった。わかっていたのに、悲しみがせり上がってくる。
憧れていた人の新たな一面。
見たくなかった一面だ。
「お前、遊び相手になってくれんだろ?」
「っ」
手首を掴まれた。
鋭い眼光が、くるみを突き刺す。
「……こっち、来い」
「ひゃっ」
腕を引っ張られる。ぎりぎりと手首をにぎられて、痛みで眉根を寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!