師走の風と心のカイロ

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師走の風と心のカイロ

「おっそうじ、おっそうじ、うれしいなあ~♪」  今年4才になった娘が、楽しそうに歌いながら手を動かす。小さい手に合わせて作った小さい雑巾は、未だに真っ白なままだ。  年末の大掃除をするため、私と主人は朝からドタドタと忙しくしていた。毎年の事ながら、この時期は本当に大変だ。  新年を迎えるための大事な準備でもある大掃除。それをやっている間は、残業ながら子供に構ってはいられない。  そこで、あの雑巾だ。 「美優は、このテーブルを掃除してくれる? その間、お父さんとお母さんは他の所を掃除するから」 「えぇ~」 「美優が手伝ってくれると、お父さんとお母さん、すごく嬉しいんだけどなあ……」 「わかったぁ!」  本当に可愛いものである。  実の所を言えば、一度サッと拭いてあるのでそこまで汚れているわけでない。だが、それを知らない娘は、「手伝ってくれたら嬉しい」という言葉に、せっせとテーブルを磨いているのだ。  最初は乗り気じゃなかった娘が、自分たちの為に頑張ろうとしている──。そんな姿を微笑ましく思いながら、私はベランダの窓を拭き始めた。  澄み渡った青空はまさに大掃除日和だが、顔に当たる師走の風はとても冷たい。それでも、心はカイロを貼ったようにほっこりと温かいのは、何故だろう……? ──おしまい
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