死が二人を分かつまで

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「放して下さい!」 僕は抵抗して彼を押し退けた。その拍子にボタンが外れてしまい、彼の白い肌が少し露になった―――のと同時に、ちらりと大将の背中にあるものと似たようなものが見えた。……この人も全身入っちゃってる系……? 「オイ! うちのもんに何してやがる!」 中々戻らない僕を心配した仲間がどうやら、大将に言ってくれたらしい。大将は良く研いだ包丁を手に座敷に上がって来た。 「内に居るもんは皆、堅気だ! 手出しするなら出て行きな!」 大将の鬼瓦の様な恐ろしい怒りの形相を物ともせずに男は立ち上がって、大将に近づいて行った。 「虎さん、この子をうちの専属してくれません?」 「ここは指名制はやってねえんだよ。店間違えんな」 「でしたら、連絡先を」 「断る! 言っただろ! コイツは堅気の普通の人間だ! 誰がお前等みたいな危険なアウトロー達と関わらせるか馬鹿者!」 大将は直ぐに叩き出したいが他の客の手前それが出来ずに歯がゆそうだった。僕の手を引っ張って座敷をどしどしと出て行った後、「あのテーブルの注文は取りに行くな」と言われた。代わりに、ホールのベテラン先輩が何回か取りに行ってくれたが、特に揉める事は無く、無事にバイトが終わった。
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