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「大丈夫」
柔らかい声と同時に、ふわり、と温かいものが頭を撫でた。
それが雨宮の手だと認識するのに、一瞬時間がかかった。
「え?」
びっくりして顔を上げると同時に、その手は離れ、彼は何事もなかったかのように、真面目な顔で仕事の話をする。
「あまり深刻なミスでもないから、そんなに青くならなくていい。君が作業していた途中までは確認しているし、アットホーム感のある手作り栞だから、奇抜なものじゃなければ大丈夫だ。ただ、何事も事前確認は怠らないようにしたいから、今日確認しておきたかっただけで、明後日の朝一で見せてもらえれば間に合うと思う」
そう言って優しくフォローしてもらえたが、千紗子はいま一つ納得出来ないでいた。
雨宮は、上司としてはとても優しい。もちろん厳しくすべきところは厳しくする人だが、ちょっとしたミスなどを必要以上に責めたりせずに、どうしたらミスがなくなるかを丁寧に指導してくれる。とても真面目で信頼のおける上司だ。
そんな雨宮に指導を受けているのに、こんな初歩的なミスをする自分が情けなかった。
「本当に申し訳ありません。金曜日の朝一には必ずお見せ出来るようにします」
「よろしく頼んだよ」
切れ長の目を少し細めるように微笑んで、彼は千紗子の前から立ち去った。
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