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「雨宮さんがね、」
言いながら、美香の目がキラリと光る。
「今日は女子高生に手紙を貰っていたわよ~」
くふふ、と笑う美香に、千紗子はポカンと口を開けた。
朝は「目の保養」などとミーハーな発言をしていた彼女だけど、プライベートでは素敵な彼がいて、雨宮に対して上司以外の特別な感情は持っていないらしい。
彼女の雨宮に対する感覚は、テレビの中のアイドルに対するようなものらしい。以前本人がそう言っていたのを千紗子は覚えている。
「相変わらずモテモテなんですね」
「そ~なのよ。本人はいたって真面目なタイプなんだけど、いかんせんあのルックスでしょ~。老いも若きも見惚れちゃうのは分かるのよね~」
「そうですね。人気があるのが分かる気がします、雨宮さんが」
「俺がどうかした?」
突然上から降って湧いた声に驚いて、二人してそちらに顔を向けると、そこには噂の当人である雨宮が立っていた。
「え、あ、、ど、どうして…」
「あら、雨宮さん。お疲れ様です」
あたふたする千紗子とは対照的に、美香は落ち着いた態度でにっこりと雨宮を見上げていた。
「お疲れ。今日は早く終わったから帰りに食事でも、と思ってこの店に寄ったんだ。二人は女子会?」
「ええ、そうなんです。今日は千紗ちゃんと二人で忘年会なんです。良かったら雨宮さんもご一緒にいかがですか?」
美香は雨宮と年も近いせいか、気負いなく彼と喋る。
目の保養だ、アイドルだ、とか言いながら普通に挨拶して同席を勧めるあたり、彼女の経験値の高さに千紗子は感心しきりだ。
一方の千紗子は、雨宮がさっきの動揺を落ち着かせるのに必死で、口を開くことすらままならない。
「いいのか?折角の女子会に上司なんか混ざったらつまらないだろう?」
「いえいえ、こんな機会めったにありませんから。せっかくなので是非。ね、千紗ちゃん」
語尾にハートマークが付きそうなほどにっこりと笑って、美香は自分の隣の席の椅子を引いた。
有無を言わせないその動きに、「もはや神業かも…」と、ようやく落ち着いてきた心の中で呟いて、「はい」と返事をした。
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