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ザーーーーッ
勢いよく出るシャワーを頭の上から被る。熱めのお湯が一瞬チリッと肌に痛い。
けれどそんなことも気にも止めずに、千紗子はシャワーの下で瞳を閉じた。
瞳を閉じると、昨夜の記憶がハッキリと思い出せる。
さっきまで夢かと思っていたのは、実際に彼女の身に降りかかったことなのだ。
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「雨宮さんはここで待っていてください」
意を決して玄関扉を開けた千紗子は、雨宮をその場に残して中に入った。
リビングまで真っ直ぐに延びた廊下を、一歩ずつ足を進める。すりガラスドアからは、暗い廊下に明かりがもれていた。
(私の思い違い、だよね………)
ドアの前に辿り着くと、心の中でそう呟いてからドアノブに手を掛けた。ゆっくりと力を込めて、ドアを押したその時―――
「…あぁっ、……はぁ~っん…」
ドアの向こうから、甲高い嬌声が耳に入ってきた。
ドアノブを握ったまま千紗子は固まった。
体は金縛りにあったみたいに一ミリも動かないのに、心臓だけは何倍ものスピードで音を立てて動いている。そうしている間にも、リビングからはあられもない嬌声と、その合間にくぐもった声が聞こえてくる。
千紗子の頭は真っ白だった。
ドアノブに置いた手が小刻みに震えているのが分かる。声なんて少しも出ずに息すらきちんと出来ているか怪しい。
いっそ耳も聞こえなくなればいいのに、いつもよりも研ぎ澄まされたように、部屋の中の小さな物音や聞きたくもない声を拾ってしまう。
時々聞こえてくるくぐもった声は、間違いなく自分の婚約者である裕也のもので、一緒にいる女と何をしているのかも、耳からの情報だけで明白だった。
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