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「そんなの、あなたじゃ物足りなかったからに決まってるじゃないかしら?」
ソファーの向こうから声がした。
甲高いその声はさっきまでドア越しに聞いていた、それ。
千紗子は黙ったままソファーの向こうを凝視した。体の横に垂らしたままの両手を固く握りしめて。
ソファーの背から姿を現したのは、シャツを上半身に羽織っただけの女だった。
千紗子よりも年上と思われるその女は、茶色の巻き髪をサッと掻き上げて、千紗子を睨みつける。
「裕也が言ってた浮気されてることにも気付かない鈍い女って、あなたのことね。だから結婚しても私との関係は続けられるって。あなた最近彼に抱かれた?抱き心地が悪いから欲情しないって愚痴っていたのよ。――ほんとね」
その女は千紗子の体を上から下に舐めるように見た後、勝ち誇った顔で「ふんっ」と笑った。
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