3・裏切りと告白

10/37
前へ
/305ページ
次へ
 「ちょっ、サユリ!……ちが、俺は…千紗」  「この状況で言い訳か。最低だな」  それまで千紗子の後ろで黙っていた雨宮が、突然そう言った。    「なっ!!この女の言うことはデタラメなんだ!分かってくれるよな、千紗?」  必死の形相で言い訳を口にする裕也の上半身は裸だ。  もっとも腰から下はソファーの背に隠されていて見えないけれど。  ついさっきドア越しに聞いた二人の声と、目の前の二人の素肌。  聴覚と視覚からの二つの情報が頭の中で合わさって、千紗子は吐き気すら覚えた。  目の前の男をただ黙って見る。  この人は本当に自分の恋人なのだろうか。  (私が好きだった裕也は、どこか別のところに行ってしまったのかしら………)  今朝だって彼の態度に何の疑問も抱いてなかった。  毎晩帰りが遅いのも二人の将来の為に頑張ってくれてるんだと、つい少し前まで千紗子は信じていたのだ。  (一緒に幸せになろう、って言ってくれたのは嘘だったの?)  千紗子の頭の中に、嵐のように様々な言葉が浮かんでは消える。  そのどれ一つも彼女の口から出ることはなく、反対に唇を血が滲むほど噛みしめた。
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10417人が本棚に入れています
本棚に追加