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「ちょっ、サユリ!……ちが、俺は…千紗」
「この状況で言い訳か。最低だな」
それまで千紗子の後ろで黙っていた雨宮が、突然そう言った。
「なっ!!この女の言うことはデタラメなんだ!分かってくれるよな、千紗?」
必死の形相で言い訳を口にする裕也の上半身は裸だ。
もっとも腰から下はソファーの背に隠されていて見えないけれど。
ついさっきドア越しに聞いた二人の声と、目の前の二人の素肌。
聴覚と視覚からの二つの情報が頭の中で合わさって、千紗子は吐き気すら覚えた。
目の前の男をただ黙って見る。
この人は本当に自分の恋人なのだろうか。
(私が好きだった裕也は、どこか別のところに行ってしまったのかしら………)
今朝だって彼の態度に何の疑問も抱いてなかった。
毎晩帰りが遅いのも二人の将来の為に頑張ってくれてるんだと、つい少し前まで千紗子は信じていたのだ。
(一緒に幸せになろう、って言ってくれたのは嘘だったの?)
千紗子の頭の中に、嵐のように様々な言葉が浮かんでは消える。
そのどれ一つも彼女の口から出ることはなく、反対に唇を血が滲むほど噛みしめた。
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