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熱いシャワーは、千紗子の体温を上げ、脳を働かせるのに十分だった。
脳が覚醒するにつれて、霞みがかっていた記憶がはっきりとしてくる。
千紗子が思い出したのは、裕也の手酷い裏切りだけではない。その後の雨宮との濃密な場面も、思い出してしまったのだ。
(全部夢ならいいのに…!)
自分の体に付いた無数の赤い跡は、ゆうべ雨宮が付けたものに他ならず、それは雨宮が千紗子の体に触れたという確かな証だ。
悲しみと絶望の次に訪れた激しい羞恥に、千紗子は力なくその場にしゃがみこんだ。
(わたし…いったい、なんてことを!)
願ったのは自分で、雨宮はそれを叶えてくれただけ。
たとえその場限りでも、千紗子の願いを叶えた雨宮を責めることなんて出来るはずもない。
確かに彼は千紗子の願いを叶えて、抱えきれないほどの悲しみをを忘れさせた。というよりも、思考を根こそぎ奪ってしまうほど、千紗子は雨宮に乱されたのだ。
雨宮は、根を上げた千紗子がどんなに懇願しても、それを聞き入れることなく、千紗子を何度も快楽の底に突き落とした。だけど彼自身は、シャツを脱ぐことすらしなかったのだ。
だから千紗子の昨夜の記憶の中の雨宮は、Yシャツのボタンを胸元まで寛げただけで、ずっと服を着たままだ。
(何もかも、忘れてしまってたら良かったのに………)
随分長い間シャワーを浴びていた。いい加減バスルームから出なければ、心配した雨宮が入ってこないとも限らない。
(雨宮さんと合わせる顔もないけれど、だからってここにずっといるわけにはいかないわよね………)
はぁ~っと長い息をついて、シャワーのコックを捻ってお湯を止める。
勇気を振り絞ってバスルームから出た。
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