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「あっ、」
扉を開けて一歩足を踏み出した瞬間、開いたドアの真横の壁にもたれながら立っている雨宮と目が合った。
扉のすぐ隣にいるとは思わなかった千紗子は、「あ」の口のまま固まってしまう。ほぼ真横に立っている雨宮に、じっと見下ろされた。
雨宮はⅤネックのザックリとした紺色ニットの袖を捲って、スラリと長い脚には黒いスエットパンツを履きこなしている。掛けている眼鏡はブラウンの太いプラスチックフレームで、自宅専用なのだろうか、職場では見たことがない。
仕事の時とは違うラフなスタイルに、千紗子の心臓がドキンと音を立てた。
「良かった」
息を吐くようにそう言って、眉と肩をストンと落とした雨宮に、千紗子は困惑した。
「少し遅いから、中で具合が悪くなってるかもと思ったが、大丈夫そうで良かった」
「あ、………」
彼の言葉に、自分を心配してここで待っていてくれたんだと、千紗子は気付いた。
「ご、ごめんなさい………」
「いや、しっかり温まれたみたいだな。さっきより顔色がいい」
千紗子の頬をそっと指の背でサッと刷くように撫でた雨宮は、にっこりと笑って言葉を続けた。
「おいで。朝食にしよう」
背を向けて廊下を歩き出した雨宮の後を、千紗子は慌てて着いて行った。
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