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雨宮の後からリビングに入ると、一番に目に飛び込んできたのは大きな窓だ。ブラインドが上げられていて、バルコニーの向こうから柔らかな陽射しが降りそそいでいる。
昨夜の千紗子は、周りのことを見る余裕なんて欠片も持っていなかった。だからこの部屋が何階なのかすら分からない。けれど、窓の向こう側の景色はおそらく10階以上のもの。
駅の周りの商業施設の屋根が少し手前に見えて、その向こうには大きな河が流れている。遠くには緑や茶色の交じり合った山の色が美しい。
「ここに座って」
じっと立ったまま、目の前の景色に圧倒されていた千紗子をソファーの前にそっと誘導した雨宮は、言われた通りに千紗子が座るのを見届けてから、キッチンの方へと歩いて行った。
ぼんやりとそれを眺めながら千紗子は考える。
昨夜はおそらくリビングには入らなかった。
タクシーを降りた後は雨宮に抱えられてエレベーターに乗り、彼の部屋までやってきた。そして玄関からはベッドルームに直行した―――はずだ。
ずっと瞳を硬く閉じていた千紗子は、そのことを確認したわけではないけれど、雨宮の動く気配や物音でなんとなくそう確信している。
所在なくソファーに腰かけた千紗子は、頭をゆっくりと動かして部屋の中を見渡した。
LDKになっている部屋はシンプルで余計なものはない。
今千紗子が座っているソファーは、無垢材フレームにネイビーのソファカバーで、高級感のあるがシックで落ち着いた雰囲気。優しく沈む感触に、うっかり身も心も委ねてしまいたくなる。
ソファーとテレビの間には、ガラス板のソファーテーブル。足元は茶色いラグが敷かれていて、リビングコーナーとして統一感を出している。
全体的にシックな雰囲気の部屋だけれど、無機質な感じがしないのは、大きな窓の側に置かれた観葉植物のお陰だろう。
ソファーの背の向こうはダイニングテーブルが置いてあるのが、座る前にチラリと見えたけれど、流石に振り返ってまで他人の家をじろじろ見るのは憚られた千紗子は、あとは大人しく窓の外を見ていることにした。
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