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「観察は済んだのか?」
窓の外をぼんやりと眺めていたところに声を掛けられて、千紗子はハッとそちらを振り仰いだ。
「気になるなら、あとで他の所も見てきていいぞ」
両手に湯気の立つマグカップを持った雨宮は、そう言うと、千紗子の前に持っていたカップを置いた。
「でも今はとりあえずこれを飲んで」
彼の置いたカップの中を覗き込むと、茶色くてとろりとした液体が湯気を上げている。
キョロキョロしていたところを見られていたのが気恥ずかしくて、彼の方を向かずにカップを手に取る。カップを手に取って口を近付けると、甘いココアの香りがふんわりと鼻から入って来た。
「いただきます………」
カップの中に息を吹きかけて、火傷に気を付けながら淹れたてのココアを一口すする。
ココアの甘さと温かさが、千紗子の体の中にポトリと落ちた。
「おいしい………」
体の中に熱が入ってホッと力が抜ける感覚に、千紗子は思わず呟いた。
「良かった」
安堵したような声色が聞こえた千紗子がそちらを向くと、いつのまにか隣に座っていた雨宮と視線がぶつかった。
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