10433人が本棚に入れています
本棚に追加
千紗子は雨宮から視線を外すことが出来なかった。
ブラウンのフレームの向こうから、黒い瞳が千紗子をじっと見下ろしている。
濡れたようにきらめく瞳に見つめられるだけで、千紗子の体から力が抜けそうになる。
(なんで………?なんでそんな目で私のことを見るの!?)
いつも丁寧な指導する上司の姿は今はない。
彼の目は部下に向けるものではないことくらい、今の千紗子でも分かってしまう。
それくらい、とろけそうなほど甘い瞳で見下ろされているのだ。
視線だけで人を釘付けにしてしまうのは、雨宮だから成せる業なのかもしれない。
老若男女から好まれる端整な顔。仕事の時はサイドに流してある髪が、今は無造作に下されているせいか、いつもの何倍もの色気に溢れていた。
そんな雨宮に、近距離で甘く見つめられたら、千紗子でなくても逃げ出すことは出来ないだろう。
まして千紗子には昨夜の記憶があるのだ。今の状態は、虎の前の仔猫のようなものだ。
最初のコメントを投稿しよう!