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2・彼氏と上司
通勤電車のラッシュにもまれ、なんとか人の流れと共に駅から吐き出された瞬間。
「さむいっ」
千紗子の口から飛び出した言葉と一緒に、白い息が目の前に広がって空気に溶けていく。首に巻いていた大判のストールを口元まで引き上げた。
季節は冬の初めの12月初旬。
通勤路の街路樹は少し前まで綺麗に色づいていたが、もう今ではその葉はほとんど残っていない。お天気は良く青空の下だが、その姿は寒々しく映った。
けれど裸になった幹や枝には、なくなった葉っぱの身代わりよろしく、いくつもの電飾が巻きつけられている。それらは陽が沈む頃になると、色とりどりに光り輝き、クリスマス気分を盛り上げるのに一役買っているのだ。
「もうっ、裕也(ゆうや)ったらなかなか起きてくれないから、ギリギリになっちゃったわ」
突然朝晩の冷え込みがぐっと厳しくなったせいで慌ててクロゼットから引っぱり出した厚手のコートに身を包みながら、木ノ下千紗子は一人ごちた。
不満の言葉とは裏腹に、千紗子の口元はゆるんでいる。
去年からは同棲生活を送っている彼、佐々木裕也(ささきゆうや)のことを思うと、独りでに顔がほころんでしまう。
他人から見たら変な女に見えることは自分でも分かっているけれど、幸せなのだから仕方ない、と千紗子は心の中で言い訳をした。
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