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「おはようございます」
「おはよ~、千紗ちゃん。今日はちょっと遅めね」
「美香(みか)さんおはようございます。出掛けにバタバタしてしまって…、早番だったから焦っちゃいました」
千紗子はいつも、勤務開始時間より三十分前には職場に着いているようにしているが、今朝は随分とギリギリの時間になってしまった。
今日は早番なので早起きしたのだけど、裕也がなかなか起きてくれず、彼を起こしたり身の回りのことを手伝っているうちに出勤ギリギリの時間になってしまったのだ。
「珍しく寝坊?」
「…えっと、寝坊というか…寝坊は寝坊なんですけど………」
美香が何気なく口にした言葉に、千紗子は思わず口ごもった。
「あら?もしかして婚約者の彼が原因かな?」
美香は少しだけ上がり気味の猫みたいな目を、少し細めてニヤリと笑った。
冷やかすようなからかうような、そんな目線から千紗子は顔を背けて言葉を探す。
「彼、朝私が何度起こしても中々起きてくれなくて…。昨日、帰りが遅かったのもあるとは思うんですけど………」
「ふふふ、彼、千紗ちゃんに甘えてるのね。もうすっかり夫婦みたいだわ」
今度はしっかりとからかわれた千紗子は、思わず赤面して俯いた。
少し前の千紗子の誕生日に、裕也からのプロポーズを受けて、二人は晴れて恋人から婚約者へとステップアップしたのだ。
正直、付き合って3年経ち同棲中ということもあって、千紗子は内心裕也との結婚も意識していた。
そんな折の裕也のプロポーズだったので、千紗子はためらうことなく「イエス」の返事をしたのだった。
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