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さきほどよりも、気持ち速いスピードで走っていく高級車。
夜の街並みが走馬灯のように流れて行く。
柊木さんは笑顔を浮かべたままだったけど、なぜかさっきと違って、全く口を開かなかった。
気にならないでは無かったけど、よく知らない人に運転中にアレコレ話しかけるのも気が引ける。大人しく窓の外を流れる景色を眺めていたら、しばらく経ってからの信号待ちで、やっとハスキーな声が聞こえて来た。
「…結局、あんま由梨ちゃんのこと聞けんかったわぁ。」
笑顔のまま凛々しい眉を下げる柊木さん。
視線は相変わらず正面のままだ。
「あはは、確かにせっかくお家にまでお邪魔させてもらったのに、ただの世間話ばっかりでしたね。」
「俺さ?今まで何回も樹に聞いたんやで?」
「へ?」
「由梨ちゃんのこと。どんな子なん?趣味とかあんの?好みのタイプは?写真無いの?って、何回も聞いた。けどアイツ、全然教えてくれへんねん。」
「……………。」
「なんでやと思う?」
「え…………」
なんでか…って、
そんなこと私に聞かれてもな……
「…面倒くさかったんじゃないですか……あんな性格だし。」
なんとなく思いついた答えを口に出したら、柊木さんが呆れたように「ははっ」と軽く笑った。
「一応言うとくけど。」
「…はい?」
急に変わったらしい話題に頭が「?」が浮かぶ。やっぱりさっき林田さんが言っていた通り、ちょっと変わり者ではあるみたいだ。
「〝許婚″なんて言うても、実際のところはただの占いや。明日の天気なんやろな~って靴飛ばすのと、何ら変わらん。当たり前やけど、法的拘束力なんてモンも無い。だから…」
口を結んだまま、目を細めて歌うように話す柊木さん。
なぜかその横顔から、魔法のように目が離せない。
「選ぶのは、あくまで由梨ちゃんやで。俺はもう、昔から許婚に会えるのを楽しみにしてたから抵抗なんて全然無いけど、突然聞かされたらそうもいかんやろ?一生のことやし、ちゃんと普通の結婚と同じように、色んなこと考えてから決めてくれてええよ。分かんないこととか、不安なことがあったら何でも聞いてくれてええからな!」
柊木さんが、満開の薔薇の花のような笑顔をこちらへ向ける。
壮麗で誇り高く、それでいてスルリとこちらの懐へ入り込んで来るような
苦しくなるほどの、甘い香り。
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