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11
怯えるように背を丸める私を、悲しそうな瞳が見下ろしている。
前にもこんなことが、一度だけあった。
けれど今の私に迷いは無い。
運命には逆らえない。
私たちは決めたのだ。
例え咎人になろうとも
一緒に生きて、一緒に死のうと。
「…お前ら正気なん?おかしいやろ…血ぃ繋がったきょうだいやのに。…あれ以来、どっちの親もホンマつらそうな顔しとんで?」
「…………お母さんが………」
生まれたときから2人暮らしだった。
きっと大変な時期もあっただろうに、いつも元気で笑顔を絶やさなかったお母さん。
見たこともない消沈した姿を思い浮かべると、罪で固めたはずの心がミシリと軋む音が聞こえた。
「…由梨、もっかい俺んとこ来いや。
お前は今、タチの悪い夢見てるようなもんやねんて。一緒にちゃんと戻ろ?俺、頑張って幸せにしたるから…。」
泣きそうな瞳のまま、ほんの少しだけ上がる口角。
懐かしい樹の微笑み。小さい頃から大好きだった。
けど…
「…ごめん、樹。私、もう決めたの。
樹は、誰か他のいい子と幸せになって?
私のことは、最初からいなかったと思ってくれていいよ…」
自分が、恐ろしいほどに残酷なことを言っていることは分かっている。
けれどもう熱に浮かされた頭では
取り繕う言葉さえ、上手く出ては来ないのだ。
お願いだから見逃して。
今、柊木さんを失ったら
私はきっと、耐えられない。
けれど樹はそんな私の態度にも折れず
苦しそうに眉根を寄せた顔で、再び私の腕を鷲掴みにして来た。
「…俺も……俺も…お前やないとあかんねん。」
驚いて見上げた顔は、なんだか涙を堪える子どものようで
遠い昔、私に引っ越しを告げたときの彼の顔は、確かこんな表情だったな…と、なんだか場違いな過去の一場面を、ぼんやりと思い返していた。
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