11

1/1
前へ
/77ページ
次へ

11

怯えるように背を丸める私を、悲しそうな瞳が見下ろしている。 前にもこんなことが、一度だけあった。 けれど今の私に迷いは無い。 運命には逆らえない。 私たちは決めたのだ。 例え咎人になろうとも 一緒に生きて、一緒に死のうと。 「…お前ら正気なん?おかしいやろ…血ぃ繋がったきょうだいやのに。…あれ以来、どっちの親もホンマつらそうな顔しとんで?」 「…………お母さんが………」 生まれたときから2人暮らしだった。 きっと大変な時期もあっただろうに、いつも元気で笑顔を絶やさなかったお母さん。 見たこともない消沈した姿を思い浮かべると、罪で固めたはずの心がミシリと軋む音が聞こえた。 「…由梨、もっかい俺んとこ来いや。 お前は今、タチの悪い夢見てるようなもんやねんて。一緒にちゃんと戻ろ?俺、頑張って幸せにしたるから…。」 泣きそうな瞳のまま、ほんの少しだけ上がる口角。 懐かしい樹の微笑み。小さい頃から大好きだった。 けど… 「…ごめん、樹。私、もう決めたの。 樹は、誰か他のいい子と幸せになって? 私のことは、最初からいなかったと思ってくれていいよ…」 自分が、恐ろしいほどに残酷なことを言っていることは分かっている。 けれどもう熱に浮かされた頭では 取り繕う言葉さえ、上手く出ては来ないのだ。 お願いだから見逃して。 今、柊木さんを失ったら 私はきっと、耐えられない。 けれど樹はそんな私の態度にも折れず 苦しそうに眉根を寄せた顔で、再び私の腕を鷲掴みにして来た。 「…俺も……俺も…お前やないとあかんねん。」 驚いて見上げた顔は、なんだか涙を堪える子どものようで 遠い昔、私に引っ越しを告げたときの彼の顔は、確かこんな表情だったな…と、なんだか場違いな過去の一場面を、ぼんやりと思い返していた。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加