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「由梨はもう光雅んとこ行った、俺のことは置いて行ったんやって…理屈ではわかっとった。けどやっぱり…………忘れられへんかった。」
「樹………。」
「……キツいの承知で言わしてもらうけど……光雅とおるのは、人としてあかん道やで。誰も幸せにせぇへん。あのデカい屋敷の使用人のみんなも、もうずっとお通夜みたいんなっとる。お前のせいや。俺、お前をそんな女のままでいさせたないねん。」
「許嫁が来た」と、大喜びで迎え入れてくれた林田さん。
私の涙に気づかないフリをして、軽い口調で天気の話をしてくれた初老の運転手さん。
腕の良い庭師のおじさん。
そんな彼の愛の篭った、御伽噺に出てくるような幻想的な薔薇園。
あのお屋敷は、優しい人ばかりだった。
まるで世間知らずの主に、辛い現実を見させまいとするかのように
皆がみんな
そこに咲く薔薇の花の1輪までもが
嘘のように、暖かかった。
「…俺と行こ?今ならまだ光雅、戻って来うへんやろ。
もっかいだけちゃんとした道で生きてみよ?俺、諦められへんねん…」
縋るような目で私を覗き込む、かつての愛しい人。
けれど
私の本能はもう
本当の相手を、知ってしまった。
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