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色んなものを手にして手ぶらで帰って来た俺、1人足りない使用人たちは、暖かく受け入れてくれた。 樹は無事やった。 自慢の顔にも傷は残らなかった。 けれど不思議なことに、俺に関する記憶だけを綺麗さっぱり失っとった。 由梨ちゃんも同じ。 俺が関わるところだけが曖昧で、それ以外のことは支障が無い。 ホラ、やっぱり。 ただの罰やんか、こんなん。 ええよ、1人でも。 いや、1人のがええわ。 こんな笑えんような罰なら 由梨ちゃんに背負わせないで済むってだけで、大ラッキーやんか。 久しぶりに足を踏み入れた薔薇園は変わらずに美しく まるで古い絵本の挿絵のように、幻想的やった。 さよなら。 御伽噺の中のお姫様。 ありがとな。 二度も俺のことを選んでくれて。 むせ返るような甘い香りで胸を満たしながら 月明かりの下、 いつかの黄色いチューリップ畑の光景を まるで昨日のことのように、思い出していた。
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