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18
あれからもう、どれだけの月日が経ったのか。
俺は結局のところ、2回結婚に失敗した。
生まれた子どもには許嫁の祈祷は行わず、俺自身は今現在、有名な大学病院の個室のベッドの中で、独身として生涯を終えようとしている。
何の前触れもなく止まりかけている心臓を、俺だけが理解しとる。
たまたま誰もいない病室。
繋がれた計器の類が無反応なのは、まさかまだ罰が続いとるからか。
でも、1人でも別にええよ。
ホンマに一緒にいて欲しい人がおらんなら
1人でも、別にええ。
最期の最期。
オレンジの夕陽が差し込む、無機質な駄々っ広い病室。
それはまさに、御伽噺のような奇跡の光景。
あの旅立ちの日に車窓から見た、お姫様のドレスのような光が病室へと差し込み
ベッドの上で1人ぼっちの俺のことを
まるで天国から伸びる梯子のように、迎えに来た。
「…やっぱ可愛ええやん、そのズドーンとしたドレス。」
暖かな光の先には
青い薔薇の花束を抱えたあの人。
昔々、遠い世界に置いて来たお姫様。
この世でただ1人の許婚。
運命の〝番″。
「やーっとまた会えたなぁ…今度こそ結婚する?」
懐かしい運命の人の瞳が
あの頃よりも、もっとずっと優しく
俺だけのために、細められたような気がした。
【END】
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