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「ミカコちゃあ~ん、俺お腹減ったぁ!」 お茶を飲み干した柊木さんが、甘えるような声を上げた。けれどメイドさんはキラキラした目で私のことを見つめながら、 「初めまして、ようこそ柊木家のお屋敷へ!私、ハウスキーパー(家政婦長)の林田と申します。光雅様の許婚のお嬢様がこんなに早く見つかるなんて…感無量でございます!」 と、やや大袈裟な歓声をあげた。 「ミカコちゃん、俺、もしかして無視されてる?」 「もしかしなくても無視されとるやろ。」 「あ、ど、どうも…初めまして…中野由梨と申します……えーと、この度はちょっとその…よくわからないままお邪魔してしまいまして…」 しどろもどろで挨拶する私に、林田さんがにっこりと笑いかける。 「ご心配には及びませんよ! 光雅様はちょっと何言ってるか分からないことや、〝何してんの?″って聞かずにはいられない行動を取られることは多々ございますが、お優しくて頑丈で、社交界でもお嬢様方から1番人気のジェントルマンでございます!きっと誰よりもお幸せにして頂けますこと、間違いございません!」 「ごめんなさい、前半しか頭に残りませんでした。」 「ふん、相変わらずミカコちゃんは光雅贔屓やなぁ!」 「佐野くんも良いところありますよ。 黙っていれば。」 「無理やろ、黙っとるの。」 樹が「けっ!」と白けた目を見せて、ポケットに手を入れて壁に寄り掛かった。 そして、間髪入れずに林田さんにトレイで叩かれていた。 なんだか、思ったより堅苦しい場所じゃないみたい。 少しだけ緊張が解れた私は手に持ったまま忘れていた紅茶を、やっと一口 リップの取れかけた冴えない口元へと運んだ。
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