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目深に被ったニット帽とふんわりマフラーで目だけが覗く。
キャメル色のムートンコートにGパン、足はコートとお揃い色のムートンブーツ。
クリスマスのお洒落には程遠い格好だったけれど、顔には笑みが浮かぶ。
都心にある撮影スタジオの周囲の街路樹にはイルミネーションが点灯できるようにデコレーションされていた。
夕暮れ時の今は、まだ、光を放ってはいない。
何の目的もなしに勢いだけで出てきてしまった。
コートのポケットから携帯を取り出す。
画面を表示させると、『15:57』と時刻が映し出される。
「…6時ぐらいには戻んなきゃだね」
独り言を零して、改めて周囲に目を配るとスーツにコートを羽織った社会人らしき数人が足早に道を急いでいる。
この時間だもの、仕事中だもんね。
心の中でお疲れ様です、と声を掛けて そっと彼らの背中を見送る。
自分も仕事をしているからこそ、業種も違い年齢も上の見知らぬ人でも、なんだか同志のような気がしてしまう。
クリスマスだろうが、仕事をしている人はいつもの日常と変わりはしないよね。
その姿に、どこか自分を納得させられる。
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