4/10
前へ
/65ページ
次へ
*  目深に被ったニット帽とふんわりマフラーで目だけが覗く。 キャメル色のムートンコートにGパン、足はコートとお揃い色のムートンブーツ。 クリスマスのお洒落には程遠い格好だったけれど、顔には笑みが浮かぶ。 都心にある撮影スタジオの周囲の街路樹にはイルミネーションが点灯できるようにデコレーションされていた。 夕暮れ時の今は、まだ、光を放ってはいない。 何の目的もなしに勢いだけで出てきてしまった。 コートのポケットから携帯を取り出す。 画面を表示させると、『15:57』と時刻が映し出される。 「…6時ぐらいには戻んなきゃだね」 独り言を零して、改めて周囲に目を配るとスーツにコートを羽織った社会人らしき数人が足早に道を急いでいる。 この時間だもの、仕事中だもんね。 心の中でお疲れ様です、と声を掛けて そっと彼らの背中を見送る。 自分も仕事をしているからこそ、業種も違い年齢も上の見知らぬ人でも、なんだか同志のような気がしてしまう。 クリスマスだろうが、仕事をしている人はいつもの日常と変わりはしないよね。 その姿に、どこか自分を納得させられる。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加