93人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章
お困りごとはありませんか?
気になるお宅のあの厄介事。
人様に聞かれてて困る有象無象の現象などございませんか?
そのお困りごと、一度当社にご相談ください。
解決できるよう当社がお力添え致します。
「今日は午後から新規のお客様が来るって言いませんでしたか?」
雀の巣のようになった黒髪をほどきながら愚痴をこぼす。
「どうしてこんなところで寝てたんですか?」
絡まった髪をほどいているのか、引っ張られて痛い。
文句を言っているその声はなぜか楽しそうだ。
されるがまま半分クッションに埋まりながら長い髪の人物はごにょごにょと
何か言っているがその声は聞き取れない。
「だいたい、何でソファーで寝てるの? 奥に部屋があるでしょ?」
「……るさい。どこで寝ても一緒だ」
のろのろと体を起こし、長い髪の奥で低い声で文句を垂れる。
細い四肢と艶々の髪に騙されたがどうやら男のようである。
細くつややかな黒髪、眠たそうな鳶色の目。髭は薄く、ほとんどない。
男らしいというより中性的な顔立ちだ。
ひょろりと痩せた四肢。上背はあるが鶏ガラだ。
名前を香月達也という。
この事務所の主である。
外見だけならいい男で通用するかもしれない。見た目は。
「いつまでもごろごろしてないでいい加減に支度してください。仕事です」
この男、そもそもだらしがない。長い髪も切るのが面倒で伸びているだけだ。
幸いなのは外面がいいということ。オンオフは使い分けできている。
「早くしないと依頼者が来ちゃいますよ? 接客業は第一印象が勝負です。ただでさえうちは胡散臭いんですから」
女性の小言が続く。
いったいどれほど不満が溜まっているのか、このまま聞かされるのはかなわないと立ち上がる。
最初のコメントを投稿しよう!