第一章

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「では、ご依頼の内容を確認させていただいてもよろしいですか?」  こちらは落ち着かない様子で紅茶を一口飲んで、御園が顔を上げる。 「本当に、こちらでよろしいんですか?」 「若造が、とご心配でしたらお断りいただいて結構です。それも依頼者の自由ですから」  躊躇(ためら)う様子に綺麗な笑顔で達也が返す。横で香苗が睨んでくる。  このご時世コンサルタント収入はそれなりに安定しているが、仕事の件数はあまり多くない。忙しすぎても困るが暇なのはもっと困る。 「いえ。大丈夫です。ちょっと驚いただけですから」 「よく言われます」と笑顔の香苗。 (……少しはオブラートに包んだらどうだ?) 「当方は守秘義務は徹底しております。依頼内容は決して他言いたしませんのでご安心ください」  文句を言いたいのを飲み込んで達也は綺麗な笑顔を向ける。 (香苗の言う通り、接客業に第一印象は大事である) 「……ご依頼したいのは、父が残した家についてです」  短い沈黙の後、ようやく依頼の件について話を始めた。 「山手の方に父の残した家があるのですが。その家のことで相談したいことがありまして……」  よほど言いづらい事なのか御園は言いよどむ。 「少しばかり困ったことがありまして、谷口さんに紹介していただいたんですよ」  柔らかく笑うが、どう言うべきかどうか悩んでいる重苦しい沈黙を挟んでなかなか進まない。  先ほどから御園は膝の上で組んだ手を開いたり閉じたり。落ち着かない。 (このままでは埒が明かないな) 「大丈夫です。ここには困った方しかお見えになりませんから。ここはそういう問題を解決するお手伝いをするコンサルティング会社です。どうぞ遠慮なくおっしゃってください」  達也が安心させるように笑う。 (その言葉は比喩でも何でもない)  なぜならここは曰く付き物件を処理するための会社なのだ。  曰くつきとは文字通り、憑き物が付いた家。  地縁霊、地縛霊、怨霊、祟り、その他の問題解決をサポートし、必要とあれば綺麗になった物件を次の居住者へ譲り渡す手続きをする。  もちろんコンサルティング会社として国交省へ登録済みで、毎年の研修も怠っていない。扱っている内容はブラックだがホワイト企業なのである。  仕事内容はどうあれ、ちゃんとした会社なのである。
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