第一章

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「両親が見つけた築百年は超える洋館で二つ違いの姉と両親の四人で暮らしていました。両親の死後、空き家になった家を人に貸していたんですが。なぜかその家では子供が病気になったりケガをしたりすることが多くて。すっかり悪評が立ってしまって借り手がつかなくなってしましました。それであきらめて売りに出そうとしていたんですが、事件が起こってしまいまして……」  言い淀んで何かを確かめるように組んだ手を握りしめる。 「近所の子供が家の中に迷い込んで倒れて、今も意識不明らしいんです」 (これまたお約束の展開ですな) 「鍵がかかっていたはずなのに中に招き入れられてしまったらしいんです。一緒に遊んでいた子たちに話を聞くと女の子がいて気持ち悪くて逃げたというんですが」  居心地が悪そうに言葉を切る。 「招き入れられた子が被害に遭ったと?」 「怪我はしていないんですがひどく衰弱した状態で見つかったそうです。売りに出そうと査定を頼んだ業者には青い顔でこの家には二度と近づきたくないと断られてしまいました。それが幾度も続くとお荷物でしかありませんよ。あの家は僕にとってもいい思い出はありません。値段は問いません。すぐにでも手放してしまいたいんです」  吹っ切れたように御園が綺麗に笑う。 (……古い洋館にはありがちな話で) 「なるほど。分かりました」  御園が驚いて顔を上げたのに達也が笑う。 「ただ、お話だけでは解決は難しそうですのでよろしければ現地でそういう現象について調査させていただきたいのですが、許可していただけますか?」 「それは願ったりかなったりです。いつからでも構いません。むしろこちらからお願いしたいぐらいです。家は人に管理を任せていて今は空き家になっていますが電気や水は普通に使えますからいつでも構いませんよ。……ただ、何が起こるか分からないので気を付けてくださいね」 「大丈夫です。体だけは丈夫にできていますのでご心配に及びません。それに引き際は心得ているつもりです」  その後、香苗と事務的なやり取りをしてほっとしたような顔で屋敷のカギを預け、何度もお辞儀をして御園は帰っていった。 「久々のお化け屋敷の調査かい」  呟きながら達也は組んだ手を天に突きあげ大きく伸びをする。 (第一印象はこんなもんで問題ないだろう)  新規の客は気を使うので疲れる。
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