第一章

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「前回は庭の池に住んでる河童の調査でしたね」 「……あいつには困った」  おとといまで付き合わされたそいつを思い出して達也はうんざりと呟く。 (そう、あいつはとんでもなかった)  河童と言えば大好物はキュウリ。ではなかったのだ。  世の中広いものである、なんと祀られていたのは酒豪の河童。  その酒量たるや、ざる、否、底なしの呑兵衛であった。  家の持ち主が変わり祠にお神酒があげられなくなり、酒が飲めなくなったことに業を煮やした犯行だった。河童の攻撃に持ち主はたまりかねて家を手放したいと知り合いの不動産屋を介して懇願してきたのだ。 「あれは家主がかわいそうだったな」  主のげっそり痩せた顔を思い出して苦笑する。 「達也も河童にいじめられてたじゃないですか」 (……それは思い出したくない)  調査に入った達也も例外ではなく攻撃対象になったのである。  怒った河童の攻撃はえげつなかった。手始めに庭の池に引きずり込む、びしょ濡れになって風呂に入れば湯船に頭まで沈められ溺れそうになった。  水洗トイレに現れた時はこのまま流してくれようかと思ったぐらいだ。  揚げ句には水道の蛇口から出る水で巨大な水の塊を作って溺れ死にさせられそうになった。今思い返してもなかなかなスリリングな案件だった。 (正直、あれはしんどかったな)  河童に謝罪した上、話し合いをして毎日のお神酒で決着した。  それに比べれば、自分が死んでいることに納得すれば消えてくれるお化け屋敷の方がかわいらしく思える。 「明日から現地調査に入るつもりだけど予定は?」 「スッカスカですから何の問題ありません」  香苗は笑顔で棘を吐くのがうまい。
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