序章

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序章

 ひいふう、みいよ、いつむ、ななや、ここのたり  箱の小鳥はなにしてる?  お空の夢を見て 綺麗な声で鳴いてます  青い羽根をふるえ、ゆらゆら、ふるえと  ひいふう、みいよ、いつむ、ななや、ここのたり  箱から逃げた小鳥はどこ行った?  雲が恋しいと 綺麗な枝で鳴いてます  赤い羽をふるえ、ゆらゆら、ふるえよ 「これは秘密の歌だよ」  弾んだ少年の声。 「このことは秘密ね」  二人は額がくっつきそうなほど顔を寄せて、ふふと笑う。  互いに年のころは十歳ぐらい。  少年は良く日に焼けた小麦色の肌とくるりとカールした栗毛。  少女は透き通りそうなほど白い肌とさらりと癖のない黒髪。   このお屋敷に住んでいるらしい。 「小鳥を探しているんだ」  伏し目がちに答えるのは少年。抱えた膝小僧にぺたりと絆創膏。  腕はひょろりと細く、人懐っこい顔をしている。  「小鳥?」  ころころと鈴の鳴るような声。  少年の隣に座り、不思議そうな顔でこてりと首をかしげる細い手足の少女。 「お外を見せてあげたいと思って箱から出したら小鳥が逃げ出しちゃったんだ。母様のとっても大事な小鳥でね。特別な時しか見せてもらえない青いきらきら光る羽根の、綺麗な小さなかわいい鳥だったんだ」 「大変、捕まえに行かなきゃ」  伏目がちにぽつりぽつりと話し出すその姿に眉を寄せ声を潜める。日に焼けた少年がこっくり頷く。 「母様の大事な小鳥だから探さなきゃ」 「小鳥さん見つかるかしら?」 「まだお庭かこのお屋敷のどこかにいるはずだ。僕はずっと探しているけど見つからない」  少年がしょんぼり肩を落として呟く。 「私も探してあげる」 「母様の大事な小鳥を見つけてくれる? 綺麗な青い小鳥だよ」  顔を上げ見上げた空に檸檬色の月が浮かんでいる。  まるで外国の金貨ようにまん丸だ。  昼間の太陽ほどではないが月明かりが地上を明るく照らす。  薄いカーテンがかかるこの部屋にも音もなく忍びこむ。  薄汚れた床に伸びたのは一人分の影。 「うん。青い小鳥を探さなきゃ」 「約束だよ」  しんと静まった部屋で弾んだ子供の声はふわりと闇に溶けた。
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