とら

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 高校二年生のある春の日、飼っていた猫が死んだ。  猫が家族か、と聞かれれば、あたしの場合は、イエスと答える。  その場合の家族の定義はなんだ、と聞いてくるような人には、答えたくない。何と言っても分かってはもらえないだろうから。    家族なのだからお葬式をあげようと、ペット葬というのも考えたけれど、火葬という方法がどうしても選べなかった。  仕方なく、この古びた広い一軒家の、日当たりの悪い庭に家族を埋めた。  日曜日の午後、遺品整理をしようと、少し前に段ボールで作った、出来の悪いキャットタワーを解体した。  買ってやったのに使われなかった爪とぎ用のおもちゃや、絶対にこれで爪を研ぐなと何回も言って聞かせたのに、その甲斐もなく前衛的な彫刻と化されたお気に入りの文庫本。  一つ一つを手に取り、そういえば遺品整理って何をすればいいんだ、捨てるとかは何だか無理なんだけど、と悩んだ挙句にただ床に置く。  そこでとりあえず、部屋の中を掃除してみた。  雑巾がけをしていると、あちこちからいくらでも、あの茶色いトラ柄の体から落ちた、細い毛が現れた。  床と柱は、ふき掃除ではきれいにできない傷でいっぱいだった。  安っぽい豚のぬいぐるみには猫らしい匂いが染みつき(もちろん破れだらけだ)、一応女子らしいものでも部屋に飾ってみるかと買い込んだ種々の雑貨も毛と傷にまみれている。  雑巾を持った手が止まった。  この部屋から、猫の痕跡が薄れてしまうのが、どうしようもなく怖くて、寂しくて、涙が頬を伝った。
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