お嬢様からの依頼

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お嬢様からの依頼

「凜、VIPルートから依頼だ」 叔父様からの電話。仕事中の叔父様は渋くて無駄口は叩かない。いつもこうだといいのに。 「詳細を教えて」 「依頼人は三条千花23歳、三条コンツェルンのお嬢様、自分でブランドを作って商売している、商売の才覚のある娘だ。依頼内容は自分のブランドの違法コピー商品を一掃すること」 「え?あの三条千花ちゃん?ファッション雑誌とかSNSで女子から大人気の?」 「女子高生に人気だそうだな。それなら偽物や違法コピーの件も知ってるか?」 「ええ。千花ちゃんのブランドは女子高生のお小遣いでも数ヶ月頑張って貯めれば手が届く値段。それなのに、半額以下の偽物が出回ってるの。新作発表の翌週には偽物が出てくる」 「その偽物が異様に早く出来る件について、三条千花は違法コピーのデータ流出が早すぎるから、身近な人間が犯人だと疑っている」 「身近な人間?」 「家族、仕事仲間、使用人辺りさ。家族と言っても財閥だからな。コンツェルンを兄の頼通が継ぐか妹の千花が継ぐか大問題さ」  「肝心の千花ちゃんは三条コンツェルンを継ぐ気はあるの?」 「自分のブランドを作ってそれ以外の事業には全く興味がない」 「それなら、私たち掃除屋の出番はないわ。親子でちゃんと話し合えばいいじゃない?」 「それがな、千花の推理は外れていた。違法コピーの犯人は父の頼道氏でも兄の頼通氏でも兄嫁の菫でもなかった」 「それなら仕事の関係者が一番怪しいわね。違法コピーのデータをいち早く持ち出せるし、コピー商品の作り方も熟知してそう。お手伝いさんじゃ、データは持ち出せても商品作りのノウハウがなさそうだもの」 「ところが仕事関係者、三条家のお手伝いさん、全部洗ったのに全員、白だった」 「え?叔父様が調べて犯人が見つからない?」 「ああ。三条千花が見逃してる可能性が2つある。一人は千花の親友、もう一人は千花の恋人。どちらが犯人でも、二人の共犯でも三条千花が傷つく結果になる。凜には、そろそろ依頼人の心のアフターフォローを教えておきたい。今回はアフターフォローが必要になりそうだ」 「叔父様…犯人が親友か恋人、もしくはその二人の共犯って…。どうやって千花ちゃんのフォローをしていいか、皆目見当がつかないわ」 「いいか、依頼人の心のアフターフォローで最も大切なことは…」 叔父様は一度言葉を切って息を吸う。 「愛だ。傷ついた心をこのイケメンな俺様が癒せば三条千花は身も心も満たされるだろう」 肝心な所でふざける叔父様に腹が立つ。スマホをソファーに投げつけたい衝動を堪えて、 「三条家の財産狙いだと思われますよ。それに叔父様と千花ちゃんじゃ親子の年齢です」 「愛があれば年の差なんて、なんのそのだ」 「寒いギャグより、依頼人のアフターフォローのコツを教えてください」 「真面目な話、本当に愛と思いやりだよ。相手の立場に立って、立ちすくんだ依頼人がもう一度歩き出そうと思えるように、話を聞き、ときには仕掛けをしてきっかけを作る。掃除屋の仕事はただの捕物帖じゃない」 「きっかけを作る…か。叔父様から私への掃除屋中級のテストかしら」 「そのつもりだ。事件が解決して傷ついた依頼人の心を癒すきっかけを作れるか?凜ならこのテストに合格出来るはずさ」 私は仕事の段取りを叔父様と確認してスマホの通話終了ボタンを押した。
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