死に損ないの詩

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死に損ないの詩

▪朝陽if章より奏。 ▪暗殺描写含む。閲覧御注意。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 正義なんて、地底に放り投げた。 想い人の中に広がる世界を知った、あの日から。 まるでその地に神の裁きが下されたかのように、死体が横たわる。一つ、二つと数えるのも馬鹿らしい程に散らばったそれは、物の見事に血の池に沈んでいた。 血腥い廃墟を出れば、星が降る。皮肉な事に、今日は空が一段と綺麗だ。これを想い人と見られたのなら……なんて私情は、虚しく溜息に乗り、夜闇に消えた。 握り締めたロケット。胸に抱く彼女を守る、その為だけに堕ちた死線の世界。途方もない上に、泥沼だ。 そして彼女はまた、自分の前から姿を消した。 そうなってしまえば、繰り返される惨劇に意味があるのかすら曖昧で、血腥さは朧に消え行く。 『彼女が傍に居ないのなら、流す血は虚でしかない』……そんな弱音も、心に谺するばかりで吐き出す事が出来ない。 「仲間の仇ッ……!!」 耳を掠めた声は、余りにも弱々しい台詞に聞こえた。 「折角拾った命だ。無駄にするなよ」 そう言い、男の口内に銃を突き突ける自分は一体何なのかと問う。その答えが解らぬまま、引いた引き金。 舞う血飛沫。銃口から揺らぐ煙が更なる虚を彼に運んだ。 「死に損ない程、見苦しいものもない……」 本来、死ぬべきは“今、守るべき者”だと、彼は存分に理解していた。そうすればきっと、こんな夜は自分に存在しなかったから。 だが、それでも死なせない。誰にも触れさせない。 もう二度と、夜闇を歩かせない。彼女を胸に仕舞い、彼等を生かした瞬間に、そう決めた。 「星が綺麗だよ……、姫」 死神の笑顔が忘れられなくて、その死神に、愛した彼女に、命を根こそぎ奪って欲しくてーーいつだって死に損ないは自分なのだ、と……彼は声を殺して、微笑んだ。 銃口を空に向け、星を撃つように引き金に手を掛ける。発砲音が一つ、二つと虚を飾った。 星の数ほど生命があると言うならば、一番星以外は要らないと。弾が無くなるまで、彼は銃を撃ち続けた。 ………END………
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