子供らしさに首を絞めた日

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ベッドの上、彼の膝で楽しそうに話す少女の目はクマだらけで、目蓋は赤く腫れぼったい。誰の目から見ても、無理をしているのが解る。だが、彼は触れないのが優しさだと言わんばかりに、こうなった理由を聞かなかった。少女が喋り続け、疲れて眠るまで、他愛もない話をするだけ。 いつぞや、それはぎこちない優しさだと焔に嫌味を吐かれたが、そのぎこちなさに彼自身が気付く事はなく…… 「また、ですか」 「居たのね、お前。さすが寄生虫」 部屋の扉が静かに開く。しかし、灯りもつけないまま、焔は部屋へと入り、隼人の膝で眠る少女に毛布を掛けた。 「いい加減、此処に戻って来られては? その方が白夜様も安泰と言うもの」 「だりぃ」 「はぁ……まっ、いいですけど」 仕事です、と。胸ポケットから出した複数枚の依頼書を隼人に渡す。それを見、彼はだるそうに口を開いた。 「何でコイツのもよ」 「白夜様が仕事が出来る状態にあるとでも?」 「餓鬼は外で遊ぶもんだろうが」 「殺人を遊びと揶揄する貴方と、白夜様は違いますから」 それに遊びたいのなら、尚更。貴方がやるべきだ。と、如何にも怪しい仮面越しの視線が隼人を睨める。 滴る溜息。依頼書を宙にぶん投げ、彼は少女を胸にしまい、寝転んだ。 「大変な、お前も」 「何がです?」 床に散らばった依頼書を拾い、ついでに部屋の片付けを始める焔。紅眼は、そんな忙しない彼の動きを退屈そうに眺めていた。 「長役」 「仕方ないでしょう。彪ではまだ幼過ぎる。育成も全く追い付いてない状態ですしね」 「あの餓鬼の前に、誰かやらねぇの?」 「千里様の指針は絶対だ。それを翻す真似等したら、私の命は無いでしょう」 「はいはい、揃いも揃って随分とお熱い忠義心ですこと」 「それに、不要な権力争いを避ける為の“長決め”ですから。彪以外、あってはならないのですよ」 「あっそ」 深い眠りについた少女の髪を、暇潰しのように弄る。さらさらとした金色の髪。一本一本が月明かりに照らされ、輝いている。 ふと、紅眼が弧を描いた。それを見た焔もまた、安堵したような溜息を溢した。 「伸びたでしょう?」 「何がだよ」 「髪。貴方と知り合ってから、大分大人になられた」 「何言ってんだ。まだまだ餓鬼だろ」 「そう言っていられるのも今だけですよ。彼女はきっと、すぐにでも大人になる……千里様が亡き今、周りが、彼女が子供でいる事を許しませんからね」 焔の潜めた苦笑。鋭い彼が見逃す筈も無いのだが、然程の興味も無かったようで……胸ポケットに仕舞われていた依頼書を無遠慮に引き抜き、隼人は部屋を出て行ってしまった。 「素直じゃない人ですよねぇ、本当に……」 微笑みをひとつ溢して、少女の頭を撫でる。 そうして、少女のあどけない寝顔を見つめ、焔は憂い思いに沈む。こんな過酷な環境下、せめて彼がこの子の傍にずっと居てくれたのならーーと。
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