子供らしさに首を絞めた日

3/4
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
黒と白のコントラストに、紅が混じる。 雪が生温く赤黒い液に溶かされ、数ある遺体は地面に埋もれていた。 しなやかに駆ける刃と、それによる断末魔の叫び。 山賊達の息が、物の見事に途絶えていく。 「し、死にたくないよぉっ……父ちゃんっ、母ちゃあぁあゃん!!」 幼き男児の悲痛な叫び声が森の奥深く、虚しく谺した。 だが、そんな声も、姿も、彼には響かないばかりか、最早日常茶飯事。だから、言葉なき死刑宣告を下す。 月に伸びた刃先。ナイフのように鋭い紅眼が、男児を見下ろす。口元を吊り上げ、凄惨な笑みを浮かべて。 「やめてえぇえぇぇえッ」 血飛沫が舞い、刃が男児の顔を真っ二つに切り裂いた、その直後。 彼の顔が歪んだ。耳を掠めた声に、驚愕を隠せなかったから。 「あっ……あぁ……」 ぼとり、雪に沈んだ脳の破片を、遺体を見、少女が肩を震わす。その場に跪き、戦慄する。酷く青ざめた顔で、頭を抱えながら。 「どうしてお前が此処に居るんだよ?」 彼はその遺体を道端にある空き缶のように蹴飛ばし、少女の元へと向かった。そうしてしゃがみこみ、異常をきたしたように震えるその身体を抱き、背を擦る。 「寒くねぇか? ったく……」 いつも通りの優しい声調に、少女は涙した。 怖いのに、求めてしまう。彼に縋りついてしまう。 此処には、自分にはもうーー彼しか、いないから。 「どうした?」 「んっ、……んぅ、んっ……」 首を懸命に振り、息を詰まらせる。頬に纏わりつく肌の冷たさや、生温い雫が、彼女の純粋を彼に語った。 そんな少女に何故だか癒されて、つい、笑みを溢してしまう。温情なんて知りもしないのに、優しくしたいなんて思ってしまうのだ。 「あの子とっ……」 「おう」 「私のちがいってっ……何?」 「んだ?」 「私とっ……あの子っ……なにも、かわらない、のにっ……」 震えた指先が、頭が割れた男児の遺体を差す。 それを辿った紅眼は、迷うことなく少女を瞳に入れ、弧を描いて。 「全く違うだろ」 「何がちがうのっ……?」 「今回のターゲットだし」 「そういうことじゃなくってっ……!!」 「あぁ……じゃあ、俺はお前が好きだから。違う」 「でもっ……隼人がそうでも、ちがうっ…… みんなは、私にああなることを望んでいるんだ!!」 頭を抱え、少女は叫び、そして大泣きした。 確かに、自分が思っていた以上に少女は大人になったのだ、と。彼は焔の言葉を思い出し、溜息を溢す。 感受性の問題とは言え、少女は余りにも優し過ぎる。あんな穢れた組織に、あってはならない存在。これが治らぬ限り、長生きも出来ないだろう。 そう理解しているのに、死なせたくはない。生きてほしいと願ってしまう。だから、まだ大人にさせたくはないのに、何も知らない子供でいて欲しいのに……子供騙しを止め、言葉を選んでしまうのだ。 「俺はお前の死を望んでない。それが全てだよ」 「すべ、て……?」 「今から、お前の生きる理由は俺だけだ。そう生きろ。そうしたらーー」 ずっと、傍にいてやるよ。 少女を片手で抱き抱え、彼は歩き出す。 ゆらゆらとした視線の先、遠退く男児の遺体に少女は涙を投げた。沸き立つ感情をぎゅっと堪えて、涙を潰して、笑った。 「じゃあ……ずっと、そばにいてっ……」 「おうよ」 「私といっしょに、住んでよっ……ずっと、私といっしょにっ……、いて?」 「仕方ねぇな……いいよ。その代わり、家事は頼むわ」 その日から、少女は立ち直り、仕事の傍らで、焔に家事を教わるようになったのは言う迄もない。 ………END……… Next Page→後日談。会話文章のみのオマケ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!