ウォルフの掃除は終わった

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 ウォルフは死ななかった。爆発で重度の火傷を負い、全身に破片を浴びていたが、彼は奇跡的に生きていた。翌日、別の少年兵がそこにやってきて、まだ生きている彼を発見し、任務を放棄して軍曹のところへ報告に戻った。  軍曹は即座に動いた。少年兵と共に担架を運び、瀕死のウォルフの元に辿り着くと、彼を乗せた。  ウォルフは揺れによって意識を取り戻した。彼の呻き声を聞いた軍曹が声を掛けた。その声は普段と変わらぬだみ声だったが、どこか労るような気配が滲み出ていた。 「おい、まだ生きてるか、ループ(狼)! もうすぐ森を出る。そしたら治療を受けさせてやる。フランク人はゲルマニア人とは違って、負傷者を絶対に見捨てない。お前はよく掃除をした。三百発には少し足りないが、国に帰してやるぞ。お前の掃除は終わったんだ。だから……」  ウォルフは呻き声を上げるのを止めた。そして何かを呟き始めた。その声は、奇妙なまでに透明感を帯びていた。 「ぼく、ぼくは……ウサギが大好きだったんです。学校ではウサギを飼っていて……毎朝キャベツをあげて、小屋の掃除もしてあげて……でも、アデーレとカールを殺してしまった……ぼくが二人のお墓を掘ったんです……アデーレとカールのお墓、まだあそこに残ってるかな……」  ウォルフの目から、透き通った涙が零れ落ちた。 「ぼく、本当にウサギが大好きだったんです」  すすり泣く声が深い静寂を湛えた森の中へ溶け込んでいく。  軍曹と少年兵は足早に、無言で担架を運んで行った。
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