雪ウサギ

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 まどろみの中で、家族が一緒に暮らしていた時の事を思い出していた。 私は、その頃からパパと呼んでいたんだけど、パパは私をサクたんと呼ぶのをやめて、パパが付けてくれたままの(サク)と呼ぶようになった。 ママは今でも、私の事をサクたんと呼んでいるけどね。  私がまだ小学生だった頃、雪が溶けて、暖かくなったある日のことだったんだけど、行くあてもなくクリーム色のワゴン車でママと私を連れ出してドライブに連れて行ってくれたときの事だった。 もともとナビを頼らないパパは、どんどん北へと進んで、見たことがないような澄んだ河原の横道をさらに進んで、また山道を過ぎて着いた場所は、絵に描いたようなこんもりとした山並みに囲まれた、茅葺き屋根の家がいくつもある、時間が止まってしまったかのような場所だった。 畑で揺れる菜の花や、田んぼに水を運ぶための用水路の水の流れる音、山の上のさらに高い所を飛ぶトンビの鳴き声。 こんな何もない場所なのに、全てがとても眩しく見えた。 この景色に、誰よりも魅了されたのは、パパだった。 パパは、朽ちかけた茅葺き屋根の一軒家を借りて、いきなり『ここで癒しカフェをする!』と言い出して、私が中学に進学する頃には、ゲストハウスを抱き込んで、それを実現した。 まぁ、それが原因で、パパとママは別れて、私はママと街中に住むことになったんだけどね。
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