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5.兄弟と比較する親
お兄ちゃんは頭がいい。この春東京にある名門大学の法学部に合格した。将来は弁護士になりたいらしい。お兄ちゃんが合格した時、親はもうそれはそれは喜んだ。本人より喜んでいたくらいだ。本人はというと受かって当たり前と言った表情だった。それもそのはずだ。お兄ちゃんは昔から頭が良かったから。親はお兄ちゃんが幼稚園の時にリビングの壁ににひらがなとカタカナのポスターを貼った。お兄ちゃんはそれをたった数日で覚えてしまった。小学校にに入る前、3月から始めた通信教育は数日で1ヶ月分をこなしてしまうほどだったし、内容もしっかり頭に入っていた。小学校のテストはいつも満点。満点じゃない方が珍しいくらいだったっけ。勉強だけじゃない、運動神経もいい方で持久走では毎回学年で5番以内に入るほどだった。中学校の入学式では新入生代表の挨拶をしたし、中学の成績は常に学年トップだった。そして、当然のように市内一の偏差値の高校に合格した。
そんな優秀な兄に比べてわたしは勉強が苦手だった。勉強だけじゃない、運動も苦手だった。そんなわたしを親はいつもお兄ちゃんと比較した。
「賢之助は勉強も運動もできるのになんで明菜はどっちもできないのかしら。」
わたしが60点とか50点とかのテストを持って買えるたびにあからさまに大きなため息をつかれたものだった。そして、お兄ちゃんとの比較は普段の生活にも影響を及ぼした。
「賢之助!お隣さんからカステラもらったのよ。おやつに食べる?」
「今日は賢之助の好物の青椒肉絲よ!」
そうやって母はお兄ちゃんにだけいいおやつを与えたり、お兄ちゃんの好物ばかり夕飯に並べたりしたのだ。お兄ちゃんがお隣さんからもらった高級なカステラもらった日、わたしにはおやつがなかった。というかいつもわたしにはおやつが用意されていなかった。お母さんはお兄ちゃんにだけおやつを用意して勉強している部屋まで運んで行ってあげる。わたしがおやつが食べたいと言ってもお小遣いでなんか買いなさいと言われるか、賞味期限切れのスナックが出てくる程度だ。夕飯だってそう。お兄ちゃんの嫌いなものは出てこない。むしろ好物ばかり出てくるのにわたしの嫌いなものや好きなものは全く気にかけてもらえない。わたしは青椒肉絲が嫌いだ。昔、たけのこを食べてお腹が痛くなったことがあるから。だから、どうしても食べられない。でも、お母さんはそんなのお構いなし。わたしがご飯を食べているかなんて気にしてもいないのだ。
家の手伝いもそう。お兄ちゃんが手伝おうとすると
「賢之助はお手伝いまでして偉いわねぇ。そこまでしなくていいのよ。」
というくせにわたしには
「部屋にいる暇があったら勉強しなさい!」
と怒る。たとえ宿題や勉強をしていてもだ。どうせ勉強したところでできるようにならないのだから無駄らしい。母の内職の手伝いや夕飯の支度の手伝いをいつもさせられていた。当然宿題をやるのが精一杯になるのだから成績は良くならない。そして、成績を見てやっぱりため息をつかれる。その繰り返しだ。
わたしにだって得意なことがないわけではない。わたしは絵が得意だ。絵画コンクールで何度も賞をもらっている。でも、賞状を見せても喜んでもらえたことは一度もない。
「絵なんか得意でも何の役に立つの?」
いつもそれだけを冷たく言われた。わたしの将来の夢はデザイナーだ。だから、わたしの特技は無駄ではないと思うのだけれど、、、高校から来る進路希望調査。ずっと名門大学の法学部を第一志望にしていたお兄ちゃんと違ってわたしの第一志望は東京にある有名なデザインの専門学校。母親はわたしの進路希望調査を見てため息をついた。
「どうしてこうなのよ?もっといいとこ目指そうと思わないの?だからダメなのよ。」
お母さんは4年生大学に行って欲しいのだろう。でも、わたしが行きたいのはそこじゃない。たしかにデザインを学べる大学もある。でも、パンフレットを取り寄せてみた結果一番興味を惹かれたのが専門学校なのだ。
お兄ちゃんが上京してから母親はもうわたしのことは諦めたというように何も言わなくなった。ぐちぐち言われるのも辛いけど何も言われないのも辛いものがある。母親は毎月お兄ちゃんに送る食料を楽しそうに選んでいる。
「きっとわたしが専門学校のために上京しても何も送ってくれないんだろうなぁ。」
そんなことを思いながら見つめていた。でも、法学部に行ったからと言って必ず弁護士になれるわけではない。それはデザイナーだって同じだ。わたしの夢は絶対に叶えてみせる。いつか
「明菜すごいね。」
ってお母さんに言わせるんだ。
わたしの闘志は燃えあがっていた。
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