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もちろんこのサバイバル生活を生き延びてやる、というだけではなく、一番の目的はかつての平穏な日常に戻ることです。
だから青年は、食糧の調達と食事、そして睡眠以外のほぼすべての時間をこの島から離れるためのあらゆることに費やしました。
最初に作ったのは大きく掲げる旗で、それは青年が無人島にいる間、ずっと海岸に刺さったままでした。それ以降、地面に救助を求める大きな文字を書いてみたり、木材を繋いで筏づくりに挑戦してみたり……と思い付く限りの方法を試してみましたが、青年が無人島から離れられる日は一向に訪れませんでした。
結果として、もっとも現実的な方法が偶然通りかかった船に気付いてもらうことだ、と確信した青年は、つねに海の向こうを眺めるようになりました。
もし気付いた船があったとしても、その船が青年に好意的なものばかりとは限りません。もしそれが海賊船であれば、青年は殺されてしまうかもしれません。それでもたとえ海賊船であったとしても、青年に気付くものがあるだけで青年は喜んだでしょう。
もう長い時間、ひとりだった青年は、それほどコミュニケーションに強烈な飢えを感じていたのです。
青年はもう待つことしかできなくなりました。
待ちました。
待ち続けました。
でも青年に気付く船はひとつとしてありませんでした。そもそも視界を横切った船さえひとつとしてありませんでした。
その間にどれくらいの年月が経ったのか、夜が何回訪れたかを数えていたわけでもない青年には分からないことでしたが、青年がそれまでに無人島に過ごしていた期間は丸々三年間とすこし、でした。
諦めてしまわないのが不思議なほど、長い時間が経っていました。諦めそうになる青年の気持ちを奮い立たせるものは、やはり理不尽への怒りでした。
ですが……、
もう駄目だ、と青年は限界を感じていました。不穏な空気が島全体を覆い始めていたことは、青年もなんとなく察していて、それと関係あるのかどうか、青年には判断が付きませんでしたが、魚や獣といった生き物が島から姿を消し、ここ最近は一切の食糧を得ることができなくなってしまったのです。
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