船を待つ

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 幻覚が見えそうになるほどの空腹感の中、青年が、ただいつものように座ってぼんやりと海の向こう側を眺めていると、  一隻の船が、青年に向かって近付いて来るのが分かりました。海賊船でもいいから、殺されてもいいから、と青年が願い続けてきたものが、今、目の前にあるのです。  幻覚でしょうか。いえ違います。それは確かに本物の船でした。  にも関わらず、青年は怯え、島の内側へと向かって逃げようとしました。しかし突然の驚きと極度の空腹でまともに動くことができず、すぐに転倒してしまい、そのまま青年は気を失ってしまいました。  青年がそれを船と認識していたか、って? さぁそれはどうでしょう。  次に目を覚ました時、青年はふかふかとしたベッドの上にいました。  ベッドから飛び出るように立ち上がった青年は、自身の身を包む服や青年のいるその部屋の光景の奇抜さに驚き、今度こそ自分は死後の世界にいるのではないか、と考えました。そうすれば、窓越しの景色にも納得がいく、と。  青年がほおを抓ってみたりしていると、部屋のドアがいきなり開き、今の青年と似たような服を着た人間の女性が入ってきました。 「目が覚めたんだ。良かった」  と、その言葉を聞いて、青年の目から涙が止まらなくなりました。それは本当に久し振りの他者の声であり、もう叶わないとさえ思っていた他者とのコミュニケーションでした。  すみません、と言いながら泣き続ける青年の涙が止まるまで、女性は一言も口を挟みませんでした。
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