episode9 いつかその時が来たら

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あたしもその後に続いて出て行こうとすると、 「待って、瑠生!」 と梨花が叫んで呼び止めてきて、あたしは立ち止まって振り向いた。梨花は立ち上がって歩み寄ってくると、ポロポロ涙を零していた。 「雪子に会いに行く。謝りたい。私は本当にそんなつもり、なかったし。理にも…!そんな取り返しのつかないことになってたなんて、何一つ知らなかったの。謝りたいっ」 梨花のその眼差しは、今まで見てきた中で一番人間らしい表情だったと思う。やっと、自分がしてきたことと向かい合ってくれた。それだけは、分かった。 でも…。 あたしはゆっくり首を横に振って、 「それはやめて」 と言うと、梨花は驚いてあたしの顔を覗き込むと、スコットも立ち上がって歩み寄ってきて、梨花の肩を抱きながらあたしを見つめた。 「それは…いくらなんでも酷いんじゃないか?謝りたいって言うんだから、それで……」 とスコットも丁寧な日本語でそう言ってくるけど、あたしは二人を見つめて首を横に振った。 「梨花の気持ちは、…分かったよ。反省してくれてるって。でもね。謝りたいって言っても、梨花が今雪子に謝っても、スッキリするのは梨花だけよ。雪子には、今は会わないでほしい。心の傷は簡単には癒されないから。謝られたとしても、…その場ではきっと許してくれるとは思う。でもね。頭では分かってても、心は違う。許すとか許さないっていう話じゃないのよ。梨花はね、罪悪感があるから謝りたいと思うけど、雪子はそれでスッキリするわけじゃない。今は、雪子に必要なのは謝罪じゃなくて、時間なんだよ」
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