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 次の日、森重産業はその話題で持ちきりだった。  あの榎田君が婚約したのだ。   「いやあ、僕は断ろうとしたんだけどね、相手が『どうしても』って言うもんだからね」  お昼休みの社員食堂で珍しく彼の周りに人だかりができている。  なんでもお見合い相手に気に入られ、とんとん拍子に話が進み、三ヶ月後の挙式まで決まっているんだそうだ。  相手はよっぽど条件の悪い女だったのだろう。 「金目当てってヤツだな」 「暫くしたら原因不明の死を遂げてたりして」  榎田君と同じ営業一部の男性社員達がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。  そう言えば榎田君の家は結構な資産家だった筈だ。お金があって、三男坊ともなれば、いくら見た目が気持ち悪くても、いくら協調性皆無な自己中野郎であっても、許容範囲という事なんだろう。   「ああ、進藤さんごめんね。僕の方が先に結婚しちゃってさ。いやあ、モテる男は困っちゃうよなぁ」  榎田君は肉付きの良い手のひらを私に向けてヒラヒラと振ると「ぐひひひ」と笑った。
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