おばあさんとクロ

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おばあさんとクロ

 これは、私が動物看護師として働く動物病院で、実際にあったお話…。 毎週日曜日、病院のシャッターを開けると、必ず朝一番乗りで待っているおばあさんがいた。  その人の名前はIさん。  当時まだ新人の私は、働きだして間もなかったので、患者さんの名前をまだ覚えられていなかったのだけれど、そのおばあさんの存在は印象深かったので、今でも記憶に残っている。  そのおばあさんは、身なりがきっちりしていた。年齢に対して華美な服装というわけではなく、シルバーの髪に見合った、小綺麗で整った装いをしている方だった。  「おはようございます。」  私が挨拶をすると、そのおばあさんもにこりと微笑んで、「おはようございます」と返してくれた。その手には乳母車が押されていて、その乳母車の中にはおとなしい黒猫がいた。
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