カンパリオレンジ

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シュッ 矢が強く放たれる バシッ そしてその矢は的の中央近くに刺さった。 近くで座っていた私はその姿に魅了された。 また彼は次々に矢を打つ。 部屋は彼が打つ矢の音だけが響く。 その空気は冷たく、自分が打っているわけじゃ無いのにひどく緊張する。 静かで彼自身も真剣だった。 なので私はいつも陽気な先輩は本当に彼なのかとても不思議だった。 でも今はそんなことを考えるよりもこの空気を味わいたかった。 彼はもう部活を引退しており、一年生な私にとって一緒に活動していた期間も短く、教えて貰うが多く自分のことに精一杯だった。 なのでこうしてきちんと見るのは中々ない。 じっくり見ていると彼はスタスタと私の方に近づいてきた。 「手首、大丈夫か?」 しゃがんで座っている私と目線を合わせて聞いてきた。 「はい、体育の時に捻っちゃっただけなので大丈夫ですよ!」 「わはは!酒井、鈍臭いな~。どうする?アイツら委員会で抜けてるし、すること何のならもう帰る?あ、一緒に帰ろっか?」 心配してくれて嬉しかったが先輩たちが来るまでいますと伝えた。そして彼は真面目だな~と冷やかしてきたが「じゃ、俺も残るわ」と返してくれた。 「先輩の打つ矢、とてもきれいですね。先輩達からはいつもサボってと聞いていたけど…。」 「おい、最後の一言余計だぞ」 私はニヤニヤと笑った。 「あ~、でも俺、流石に腕落ちてるかな~」 ヒュンッ 矢の音はとてもやはり静かだった。 「え?それでですか??!」 「まーな。やっぱり引退して結構たってるしな」 次々と矢を打つ。 打っていく内に彼はまたもや先程の真剣モードになっていく。 そんな彼に私はドキドキした。 しかしこれが何のドキドキなのか分からなかった。だからきっとこの空気で緊張しているだけと納得させた。 一方の彼は背中で感じる彼女の存在にドキドキし、赤くなっている顔がバレないように装った。 これは二人の恋が始まる前の話である。
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