1──揺れる気持ちの真実【兄】

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 そうだ、好きだろうが嫌いだろうが関係ない。  この身を任せてしまえばいい。  何度も阿貴(あき)に刻まれ、身体が覚えた快楽から逃れることなんて出来ないのだから。スイッチが入ってしまえばきっと、感情なんて泡のように消えてしまう。  そう思った時だった。  社長室のチャイムが鳴る。ドアチャイムかと思えば、そうではなかった。 「おや……来客のようだね」  和宏は身体を強張らせる。まさか、複数の相手をさせられるのではないかと思ったからだ。  今更ながらに恐怖を感じベッドから降りようとしたところで、彼がベッド脇に備え付けられていたモニターに手を伸ばす。  映し出された映像に、和宏は驚愕した。    そこに居たのは、まだ若い男女。  一人はベージュのチノパンにワインレッドのパーカーを羽織っている。  もう一人は肩までの灰茶のストレートな髪に、白い清楚なワンピースを纏っていた。場所は玄関口のようだ。  彼らは中から人が出てくるのを待ち、社内へ足を踏み入れた。  そこで画面からフェイドアウトする。 ──何故、ここに居るんだ?  それは二歳下の実の妹の佳奈(かな)と五歳下の弟である優人(ゆうと)だった。  この男が和宏のプライドをへし折った日。  自分が守ろうと決めたもの。  雛本家は元々良家であり、母はその本家の出であった。  現在の義理の弟にあたる雛本阿貴は本家の長男の息子であり、五人兄弟の末っ子である。  それが何故、和宏の義理の弟になるのか?  そこには少し複雑な事情があった。  結論から言えば、阿貴は愛人の子。  本家で酷い仕打ちを受けているのを見かねた母が、彼を引き取ったのだ。初めのうちは上手くいくと思っていたが、そう簡単ではなかった。  和宏は実の子よりも阿貴を優先する母に、懸念を抱いていたのである。妹弟は不満を口にすることはなかったが、和宏が大学三年になる頃には、同じく大学に通い始めた妹が家を出ることに。  当然、両親は反対はしたが『居心地が悪い』と言われれば、強く反対することもできない。  その直後だ、あの男が来たのは。  自分が出ればいいのだと思った。阿貴の気持ちは自分にあるのだから。  妹も弟も母親似。  あの男が阿貴を良いようにしようとするならば、いづれ二人にも魔の手は伸びると思っていた。そんなこと、させられるわけはない。  そしてどうやらこの男は、女性よりも男性に欲情するようだ。 ──優人に手出しはさせない。  俺たち四人はそれぞれ、性趣向が異なる。  阿貴は同性、優人は異性愛者であり、和宏は全性愛者(パンセクシャル)。そして妹の佳奈はアセクシャル。  アセクシャルとは他人に性欲を向けない者のことを指す。 「君のことは調べさせてもらったよ。雛本一族についてもね」  和宏の背中を冷たいものが伝う。 「可愛い子だね。自分の想いが叶わないから、安全なところにでもやったつもりなのかい?」 「何を言っている」  今までの努力は全て意味がなかったというのだろうか? ──帰るんだ。佳奈、優人を連れて。  和宏は祈るような思いで、彼らの消えたモニターを見てめていたのだった。
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