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「先生!!」
アシスタントの大声で、一気に現実に引き戻された。
「何、ボーッとしてるんですか?締め切りまで、全然、時間がないんですよ!」
「はぁ…」
オレのため息を書き消すように、矢継ぎ早に言葉で攻撃してくる。
デビューしてからついたアシスタントは、このセイヤで三人目だった。編集部の期待によって、新人なのに、ベテランのアシスタントをつけられて、正直言ってキツかった。三人目のセイヤは、初めて年下のアシスタントで、内心ホッとしていた。ただ、雑な自分とは違って、神経質なタイプなのが面倒だった。締め切りは前日厳守、担当並みに作品に口出ししてくる。とにかく、色々と口うるさいヤツだったが、年齢のせいか、相手も自分も気を使わないで接せられるのは気楽で良かった。セイヤは思った事をズバズバと言ってくるのでへこむ事もあったが、担当のアドバイスよりは、ずっと的を得ている気がして、才能を感じさせた。
年下でオレの事を、先生と呼ぶ割りには、若干、オレを漫画家として、見下しているのが感じられ、それに関しても勝手に自分の中で苦笑いしているオレがいた。そんなヤツだが、何故か悪い気はしないのは、彼から育ちの良さが感じられるのと、口は悪いが根はいいヤツなのが伝わって来るからだと思う。
要するに、セイヤとは人として、感覚が合うのだ。漫画に口出ししてくる彼の言葉を聞いていると、コイツが担当だったら良かったのに、と思う事も少なからずあった。
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